『フルーツちゃん!』
作/ハミード トラーブリー
文/ジャファル エブラーヒーミー
訳/愛甲恵子

 

荒井良二氏「フルーツちゃん!」に寄せてのレビュー

すごい絵本がやってきた!!
それもイランからはるばる。
日本の僕らを驚かせ喜ばせるためにだ。
イランといえば 僕は映画が大好きだ。
キアロスタミの映画に何度驚かされたことか!!
しかも今度は映画ではなく絵本だぞ。
表紙をみて驚くぞォ!
中を開いたらさらにさらに驚くぞォ!!
この絵本は、野菜と果物で主に動物のオブジェを作っていて 短いストーリーが付いている。
終わりには野菜と果物で作るオブジェのレシピ!?まで付いていて これまた驚く。
このアッケラカンとした読者とのコミュニケーションとシンプルなアートについ顔がゆるむ。
何のフシギもなくきちんとそれらのオブジェたちが
涼しい顔をして存在している。
無駄な力というものがないのだ。
頑張っていないのだ。
しかし、その造形美にゆるぎがない。
作者は読者(子どもたち)に本物を見せたいのだ。
単なる子どもだましの産物ではない この絵本を
この日本でたくさんの子どもたちの目にふれることを
切に切に願うのだ!

雑感 by yume

とうとうブルースインターアクションズより「詩の国イランの絵本」のシリーズの第1弾「フルーツちゃん!」が発売されました!!
 
この絵本のあらすじなどは、荒井良二氏の絵本にはさんであるレビューをお読み頂ければ大半は伝わると思います。
書店で手にして頂くと読めるものですが、「手にしてもらう」ためにもこの温かな言葉を届けたくてupしてみました。
どうです?もう、「フルーツちゃん!」の絵本のページをめくってみたくなりませんか?
ちなみに、実際の挟んであるレビューは、荒井良二氏の手書きの文字と絵が印刷されているので、もっと呼吸感が伝わるかと思います!

 この絵本は、「詩」的で小刻みの良いリズム が心地いい絵本です。
「絵本」と、いっても、全部フルーツや野菜を使った写真なんですがね…

ぽんぽんぽんと、リズミカルに読んでいくと楽しく、愛らしさに ほほがゆるんでしまいます。

しかし私は、不思議なことに読みながら詩人の「金子みすず」が思い起こされました。
あの わかりやすい言葉とかわいらしいリズムの中に ぴりりと せつなさがつまった 「金子みすず」の詩。

もちろんこの絵本には、せつなさに繋がる 悲しさなど全面に押し出されてもおらず、むしろ いろいろなフルーツや野菜で作られた生き物達は、どれもかわいらしく 文も楽しいものなのばかりなのです。

この文のリズミカルな中に残るさわやかな余韻が、私にそう感じさせるのかもしれません。
が、 やはり「フルーツちゃん!」の一番最初のページが何よりの余韻かもしれません 。

そこには 一見、中身とは全然内容が違うような文が 見開きいっぱいにかかれています。

「パンとチーズとピスタチオ ゾフレは ひとりですわってた どうしてたのしく わらわずに くちびるかたく とじてるの?
 ゾフレは とっても かなしくて ひとりぼっちで すわってる ほんとは のはらに いきたいの 花たちを みに いきたいの
 ほんとは のはらに いきたいの おにわや、 はらっぱ、海だって 雪の山にも いきたいの きれいな 森にも いきたいの
 その森で、 きっと お花は わらってて 空には とりがとんでいる
 たってごらんよ ゾフレちゃん いっしょに いっしょに いきましょう のはらや きれいな あのにわへ
 たくさん 実の なる あの森へ」

このページから始まるのですが、ここで私はズキュンとしてしまいました。

「ほんとは…」と いうフレーズがくり返されている部分で、もうせつなくなってしまいます。
ゾフレちゃんは、もしかして重い病気で動けないのかな?ゾフレちゃんは、心を閉ざして一人でいるのかな?…
ゾフレちゃんは… などど、勝手な想像が駆け巡りました。

次のページをめくると、一変します。
たくさんのフルーツや野菜が、みるみるうちにかわいらしく、愛らしい「違う生き物」になっていくのです。
そう思うと、ゾフレちゃんが想いを膨らましながら、見た事もない広い広い未知の世界を身近なフルーツや野菜を使って「想像」の力によって作ったようにも思えるのです。

この最初の 「不思議な1ページ」があることによって、なんだか、ちょっぴり悲しみを含んだ「金子みすず」の詩のような響きをどことなく「フルーツちゃん!」の絵本には感じてしまったのかもしれません。

たまらなく、勝手な想像ですがね。
だって、ただ単にかわいい絵本ではあるんですもの!!

さて、皆様は、どう感じられるのでしょうか??

まさに、「子どもだましの産物ではない」絵本の神髄がここにも表れているようにおもいます。

 


 

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